中小企業や小規模店舗では、専用の在庫管理システムを導入する予算や人員が限られているケースも多く見られます。そんな中で多くの現場で利用されているのが「エクセルを活用した在庫管理」です。エクセルは導入コストがかからず、誰でも使いやすいという利点があります。本記事では「在庫管理 エクセル」をテーマに、基本的な方法からメリット・注意点、効率的に運用するための工夫まで解説していきます。
在庫管理表とは?目的・効果・導入判断
在庫管理表は「いつ・どこで・何が・いくつ動き、今いくつ残っているか」を一元的に可視化する台帳です。
目的は
①欠品・売り逃しの防止
②滞留(死に筋)の早期発見
③仕入れ・発注の精度向上
④棚卸時間の短縮。
特に中小企業では、Excelやスプレッドシートで標準化するだけでも効果は大きく、属人化や二重入力が減ります。導入判断は「SKU数」「拠点数」「ロット管理の有無」から。SKUが数百未満、拠点1~2であればExcel運用で十分スケールします。
在庫管理表の基本設計(スキーマと台帳の分離)
必須カラムと意味
まずは「商品マスター」と「入出庫履歴」を分離します。商品マスターの必須カラムは、
①商品コード(ユニークID)
②商品名
③標準単価
④カテゴリ
⑤保管場所
⑥リードタイム
⑦安全在庫
入出庫履歴は、①日付②種類(入庫/出庫/調整)③商品コード④数量⑤伝票/理由⑥担当者⑦備考。ポイントは「履歴は削らない」で監査性を担保すること。
残高は履歴から再計算できるため、残高表は派生ビュー(計算結果)として扱います。
入出庫と残高をつなぐ計算式
残高は「期首在庫+入庫合計-出庫合計」。
Excelなら `SUMIFS` で商品コードごとに集計し、残高表に `=初期在庫 + 入庫合計 – 出庫合計` を設定。
発注点は「発注点=安全在庫+(平均需要×リードタイム)」、安全在庫は「需要の標準偏差×サービス係数×√リードタイム」が実務的です。
条件付き書式で「残高<発注点」を赤表示すると、発注優先度が一目で分かります。
金額残高は「残高×単価」で算出し、滞留金額の把握にも活用します。
ロット・賞味期限・シリアルの管理
食品・化粧品・医療品・家電等は「同一SKUでもロット/期限/シリアルが異なる」ため、履歴に追加カラムを設けます。
推奨は、
①ロットNo/シリアル
②製造日/入荷日
③賞味期限/保証期限
④保管場所
出庫は「先入先出(FIFO)」が基本で、ピボットや `SORT` で期限が近い順に並べて引当。棚卸時はロット単位で数量一致を確認し、差異は「調整」種別で履歴登録することで追跡可能になります。
棚卸・差異調整の設計
棚卸手順は
①棚卸日を決め入出庫を一時停止
②棚卸票を自動生成(拠点×棚×SKU順)
③実数入力
④差異集計
⑤原因分析・調整仕訳
Excelでは「棚卸用ビュー」を作り、在庫残高からSKU順に数量のみ入力できる表を出力。差異は「実棚-帳簿」で算出し、履歴に「調整(原因:破損/紛失/数え間違い等)」で登録。翌営業日から入出庫再開、棚卸差異の金額影響は月次報告に反映します。
運用ルール(入力頻度・権限・チェック体制)
実務安定の鍵はルール化です。
①入力頻度:入出庫は当日入力(締め時間を設定)、発注点監視は毎日/毎週定例
②権限:マスター編集は管理者のみ、履歴入力は担当者、差異承認は別権限
③チェック:週次で「在庫ゼロなのに出庫」「マイナス在庫」「異常ロット」を抽出、月次で棚卸差異率をKPI管理
④バックアップ:版管理(YYYYMMDD付きファイル名)と変更履歴を残す
⑤教育:品番規則・入出庫定義・調整数の扱いを文書化して新任者でも即運用可能に。
Excel/スプレッドシート実装手順と自動化の勘所
実装は次の順で進めると安全です。
①マスター/履歴/残高/ダッシュボードの4シート作成
②`SUMIFS`・`VLOOKUP/XLOOKUP` で残高・金額・発注点を自動化
③データ入力規則(種別:入庫/出庫、商品コード:マスター参照)でミス防止
④条件付き書式で「発注要」「滞留(90日未出庫)」「ロット期限近い」を可視化
⑤ピボットで回転率(売上原価÷平均在庫)とABC分析をダッシュボード化
⑥共有はOneDrive/Googleで閲覧・編集権限を分離し、同時編集の競合を回避します。
在庫リスクの見える化(KPIとアラート設計)
KPIは下記のように設定するのがいいかと思います。
①在庫回転率(月次/カテゴリ別)
②欠品率(欠品日÷営業日)
③滞留在庫比率(90日未出庫の金額/在庫総額)
④棚卸差異率
⑤発注遵守率(発注点下回りから発注までの遅延日数)
Excelでは、信号色:緑=健全、黄=注意、赤=要対応
リストアップ:上位10SKUの欠品/滞留・期日アラート:期限30日以内のロットを太字赤
などを実装。朝会でダッシュボードを開くだけで、当日の優先タスクが決まる状態を目指します。
「在庫管理表の作り方と実務運用─ミスを減らし、欠品と滞留を防ぐ」まとめ
在庫管理表は「台帳(履歴)と派生(残高・指標)」を分離し、標準項目と計算式を決めるだけで精度が劇的に向上します。
Excel運用でも、入力規則・`SUMIFS`・条件付き書式・ピボットを組み合わせれば、欠品・滞留・差異の主要リスクを日常的に検知可能です。
まずはマスター/履歴/残高/ダッシュボードの4点セットを作り、KPIとアラートを運用に組み込みましょう。
必要があれば、御社のSKU・拠点・ロット要件に合わせたテンプレを即時カスタムしましょう。
